2009.05.02 Saturday 24ブッダの嘘と方便 −スピリチュアル寓話集−
修行中のブッダ像 ゴータマ・ブッダと弟子のアナンダが、ある日、町にむかって歩いていた。 彼らは途中で道に迷ったらしく、日没の時刻になっても町には着かなかった。アナンダはしだいに不安になってきた。ブッダは年老いた身で、しかも病気だった。それにもかかわらず、一日中歩いている。彼には夜ゆっくりと休めるところが必要だった。 ちょうどそのとき、道のかたわらでまきを集めているきこりがいた。 アナンダが彼にたずねた。 「町まではどれくらいあるかね?」 きこりが言った。 「心配しなさんな。せいぜい二キロってところでしょう」 きこりの言葉は、アナンダに新しいエネルギーを与えた。 ブッダは微笑んだ。アナンダは、なぜブッダが微笑んだのかわからなかったが、すでに疲れていたので、そのままにしておいた。 それから、彼らは二キロ以上歩いた。しかし、町が近づいたようすはなかった。あたりは薄暗くなりはじめていた。道のわきに一軒の農家があったので、アナンダがそこにいた老婆にたずねた。 「町までどれくらいあるかね?」 すると、老婆が言った。 「あと二キロ、ここまでくれば着いたようなもんじゃ。もうちょいと頑張りなされ!」 アナンダがつぶやいた。 「さっきの男も二キロと言い、またこの老婆も二キロと言う」 ブッダがまた笑った。そして、言った。 「たぶんそうなのだろう。あと二キロ、歩くとしようか」 そして、二キロは歩いただろう。だが、依然として町は見えなかった。アナンダはますます不安になっていった。 ちょうどそのとき、むこうのほうからひとりの男が歩いてくるのがみえた。 彼なら町までどれくらいか知っているにちがいない、彼は町のほうから歩いてきているのだから・・・、アナンダはいきおいこんで彼に声をかけた。 「町まであとどれくらいあるかね?」 男が言った。 「どれくらいかですって? そうですね、ちょうど二キロってとこでしょう」 それを聞くと、ブッダがまた微笑んた。 「もうたくさんだ!」とアナンダが叫んだ。「このあたりの人たちはほんとうに奇妙だ。だれもがあと二キロだと言う。だが、そうやって、我々はもう四キロ以上も歩いた。そして、それでもまだ二キロだと言う。そして、あなたは笑っている。あなたは、私が不安になるをの笑っているにちがいない!」 ブッダが言った。 「アナンダ、おまえはわかっていない。これこそ、私が生涯ずっとしてきたことなのだ。ここの人たちはたいへん慈悲深いにちがいない。彼らは、二キロではないことを知っている。しかし、そうやって私たちを四キロ先まで進ませてくれた。彼らは嘘を言っている。だが、その嘘は慈悲以外のなにものでもない。だから、私は笑っていたのだ。おまえを笑っていたのではない。私は、これこそ私が生涯してきたことだと思って、笑っていたのだよ。人々が、光明はどれくらいさきにありますかとたずねると、私は『あと二キロだ、もう少しだ』と言う。そして、それはつねにあと二キロだ。しかし、それによって人々は、旅を続けることができる。彼らは近づきつつある。だが、あと二キロ・・・それはつねに変わらない。ここの人たちはとても慈悲深く、しかも人間の心理をよく知っているようだ」 この寓話のコメンタリーはこちらからどうぞ。 修行後のブッダ像 |